直島
私が初めて直島に行ったのは1994年。こんな草間さんの作品はまだなく、まだ建築を学んでいた余韻が強く残っていた頃だったはず。最初は国際キャンプ場にあったパオに宿泊、そしてその後、安藤忠雄氏設計のベネッセハウス、ミュージアム棟に2回…と、1年の間に立て続けに3回も行ったのだ。
よほど気に入ったんだと思う。オープンしたてのそれらは、今のように一般誌で語られることはまだ少なくて、でも建築雑誌やアート誌が、こぞって特集を組んでいた。当時、まだ安藤作品のファンだった私は、その美しい写真が見せる空間に吸い込まれていた。
フェリーから島が見えてきた時は、若干不安になる。銅の製練所から出る亜硫酸ガスのせいで、緑もまばら。風光明媚と言う言葉からはほど遠い物悲しい風景。でも港から南の島半分は、国立公園にも指定されているほど、穏やかに豊かな自然が広がっている。
静かな海の音、クラシックな田舎の風景、そして安藤忠雄が創り出した整然としたコンクリートの空間。この非日常的なコントラストに私はすっかり魅せられてしまった。
あれから膨大な時間が流れた。神戸で地震に遭い、パリで暮らし、パリで学び、帰国して今の仕事を立ち上げ、毎日仕事に追われ、それでも毎年フランスに行くことに執心している中で、正直、直島は遠い記憶の出来事になっていた。
でもここ数年、パワーアップした直島の名前を聞く機会も増え、その度に思い返していた。あの幸せな時間を。そして久しぶり行ってみた。相変わらず、普通列車を乗り継ぎ、片道4時間半の旅。
人は増え、施設はますます充実し、レストランもずいぶんと美味しくなってたけど、私の思いは変わらない。今回の旅の仲間たちと心行くまで愉快な話をして、美味しい料理を堪能し、何もしないのんびり旅。そしてまた近いうちに必ず行こうと心に誓った旅だった。他にも素敵なところはいっぱいあるけれど、やっぱり私はここが好き…。
~~~~~~~~~~~~
今回は大好きなミュージアム棟ではなく数年前に出来たパーク棟での宿泊でした。こちらは全体的に木のぬくもりを感じるデザイン。
神戸にいた頃作っていた個人誌 COMME CI, COMME CA (1994年5月30日発行分)に、直島への最初の旅を綴っていたので、今回の再訪の記念にコピーしておきたいと思います。
~~~~~~~~~~~~
よく晴れた春の連休に、私は小さな旅に出た。目的地は瀬戸内海に浮かぶ島、季節はずれのリゾート地、直島…。
岡山駅から各駅停車の電車に揺られること約50分、宇野という駅につく。そこからフェリーで約20分、三菱マテリアルの製練所が見えてくる。この施設のせいで、この島の緑はあまり豊かではない。フェリーから降り立つと田舎くさい港町の風景が出迎えてくれた。それはこれから目指すリゾート施設のイメージとはずいぶんかけ離れている。資料請求をし、送られてきた美しいパンフレットの中には、こんな風景はなかった。本当に私の求めているリゾートが、こんなところにあるのだろうか…。
そもそも私がここを訪れようと考えたのは、建築家の安藤忠雄氏が手がけたホテル、ベネッセハウスがあるからだった。実は、私は彼の大ファンなのである。彼の考え方や創り出す空間がとても好きなのだ。このプロジェクトを展覧会や作品集で見て、とても興味を持っていた。直感めいたものさえ感じていた。私はきっとここを気に入るだろう…と。
直島文化村は福武書店が開発を進めてきたリゾートプロジェクトで、直島本島の約3分の1を占め、福武のコレクションを展示するコンテンポラリー・アート・ミュージアムを含むホテル、ベネッセハウスと国際キャンプ場、そしてマリーナ等で構成されている。国際キャンプ場の宿泊施設には家型テントとパオがあり、今回私は予算の関係上パオに泊まったのだが、それはそれは快適でユニークな体験だった。
私が訪れた3月は確かに季節はずれだったのだろう。まだ海は冷たく泳げないから人々がここを訪れる最大の目的は果たせない。とにかく閑散としている。走り回る子供たちが数人と、従業員がパラパラ、そして人懐こいごん太(犬)がいるだけである。しかしそれが何よりも私がリゾートに求めるものだ。私の中にあるリゾートと言う言葉のイメージは、決して照りつける太陽の下、汗ばみながら水着で寝っころがる…というものではない。むかし読んだ村上春樹の短編小説の中に出てきた季節はずれのリゾートホテル、長期滞在者のための図書室があり、人がいない。雨ばかり降り退屈なので図書室へ行き、そこで風変わりな女性と出会うお話し。または映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」でデニーロが初恋の女性を連れていく高級ホテルのシーン。貸し切られた豪華なホテルのレストランで、自分たちだけのために与えられる洗練されたサービスを満喫する。ためいきが出るようなリゾートぶりである。まあ、私に味わえるリゾート感はせいぜい村上春樹の小説どまりであるのだが…。.私ならリゾートでは何もせず、精神を解き放つことのみに専念する。唯一することは、用意された食卓につき、美味しいものを食べることのみ…。
この直島での時間は信じられない程にゆっくりと過ぎて行った。文化村と言ったって、自然以外に何もあるわけではない。お金を使って遊ぶ所などないに等しい。福武書店の企業哲学であるらしい Benesse とは「よく生きる」と言う意味のようだが、この精神は文化村のコンセプトにも十分に反映されているようにも思う。何もない、その事に価値を見いだせる人でないと、ここの良さは分からないだろう。知った人のいないこの土地の、誰もいないプライベートビーチで、まだあまり高くない太陽に照らされてきらきら輝く海をただ見つめているだけの事が、こんなにも豊かな気持ちを与えてくれるのだ、と再確認をした。私だけのリゾート…。
写真家、緑川洋一が撮り続けたこの瀬戸内海をこんなにもゆっくりと見つめたのは初めての事だが、とても日本的で、禁欲的な美しさを感じた。彼のスタイルはあまり好きではないのだが、彼のこの風景への愛着は理解できるような気がする。
おみやげは海辺で拾った小さなアサリの貝殻が3つ…。
~~~~~~~~~~~~
当時撮っていた写真はスライドでデジタル化してないのと、今回はお天気に恵まれなかったので、お見せしたいもの2つをサイトからお借りします。
Commentaires
こんばんわ。直島素敵やねぇ。
ダンナの夏休みが今週なのでのんびり目的の旅の候補に上がったんだけど、
2歳児連れは結構大変そうなので、今回は簡単なフェリー一直線の小豆島にしました。
田舎ビーチや小島、私も大好きです。お肌もブラウン一直線です。
子供がもう少し大きくなったら直島に連れて行きたいわ。
Rédigé par: nao | 18/07/2011 01:00
nao
先日はどうもでした!
小豆島もいいやんか~。
私もぜひ一度行ってみたいと思っています。
数年前に小豆島が舞台の昼ドラ見て、素敵な所だなって…。
またどうやったか、聞かせてね。
Rédigé par: mika | 18/07/2011 01:35
みかちゃんの歴史も垣間見れる素敵な旅ですね。島も過疎化が進んでますがこうしてアートで活性化すれば若人も来て可能性も広がりますね。文化的魅力は偉大です。私はお盆に牛窓前島に滞在でっす。またみかちゃんスクールに遊びに行かせて頂きまっす!
Rédigé par: Akico | 21/07/2011 11:21
akiちゃん
牛窓~???
日本のエーゲ海やね!
牛窓も一度だけ行ったことありますが
そこで利用したホテルのテラス
鄙びた感じなんやけど、それがまた気に入って
すごい長い時間、そこで時を過ごしました。
また行きたいな~。
akiちゃんはどこに滞在?
それにしてもakiちゃんもnaoも
夏休み、うらやましい!
私もパートナーとどこかに行きたいものですが
ま、無理かな~。
Rédigé par: mika | 21/07/2011 13:10
牛窓からフェリー10分の前島滞在よ~。別荘なんでお墓参りに掃除や食事いつもバタバタ、全然ゆっくりできません。半分以上仕事ですわ。みかちゃん、なおちゃんうらやましいぞ~~
(;´д`)トホホ…
Rédigé par: ChaoticVine | 21/07/2011 14:31
お!
名を変えての再登場、ありがとうです。
確かにたまにしか行かない別荘の掃除は大変そう…
でも、別荘、ってそのひびき、あこがれますょ。
Rédigé par: mika | 22/07/2011 01:56